腕の伸びる?日本人

古い着物の裄丈を長くしてほしい"というお客様のご注文が増え始めてから、随分久しい。お客様が今ある着物の裄丈を伸ばすことを望まれる理由は、一体何なんだろう?


それは、近年日本人の腕が、にょきにょき伸びてきたからとでもいうのだろうか。まさか、そんな馬鹿なことはないだろうが、振り返ってみると、着物の裄丈を長くしたいという人が増え始めた時期と、人々が普段着物を着ることが少なくなってきた時期とがちょうど一致するように思える。


女性が普段家にいて、着物を着て掃除・炊事・洗濯などの家事をする時、着物の裄丈が長ければ邪魔になるし動きにくいが、普段着物をほとんど着ることが無く、冠婚葬祭などの特別な時だけに着物を着るのであれば、裄丈が長いほうが、着物姿が優雅に見えてよい。
それかあらぬか、結婚式や成人式では、袖口が手の甲までかかっているような着物を着ている人を見かけることが増えた。つまり、着物が、日本人の普段着ではなくなり、特別な場合だけの衣装となってしまった。このように、裄丈の長い着物が好まれる理由は、いわゆる「きものばなれ」に一番の原因があるように思われる。


ところで、私は、このような長い裄丈の着物姿は、だらしなく不恰好に見え、好きにはなれない。昔の普段の生活の中で見る、今より短い裄丈の着物姿のほうが、むしろ美しく見え、好きである。髪の乱れを直す時など、袖口から白い腕がちらりとのぞいたりすると、ドキッとしたりするが、裄丈の長い着物では、何とも色気がない。世界中の、どの国の女性の衣裳でも、セクシーであることは、美しさの最も重要な要素の一つだと思う。
本来着物は、どちらかというと肩をすぼめたような感じで着るのが普通だし、洋服を着ている時のように、大きく腕を振って大股で歩いたりはしない。着物は、その形だけでなく、着方や立ち居振る舞いなども洋服とは全く異なるが、そういった洋服と着物の違いが分からない人が増えたことも、長い裄丈の着物ガ好まれる一つの理由なのだろう。


ともかく、私は再びお客様から、今度は”今の長い裄丈を短くしてください”と求められる日が来ることを望みたい。なぜならその時は、普段きものを着て生活する女性が、まさしく増えたことを意味するはずだから。